タイル、砂埃、割れた窓ガラス、応急処置のダンボール、ガムテープ。
西日を受けるとそんな些細なものでさえ、ノスタルジックを気取り出すのだから不思議だ。
私の見ているこの景色がもしカメラのレンズに収められるのだとしたら、そこに転がっているスニーカーだってセピア色の写真に花を添えるんだろう。
静かなこの時間が、あたしは嫌いだ。
昇降口。
靴から上履きに履き替える境目にちょっとした段差があって、
あたしは誰も来ないのをいいことにそこに頬杖をついて座っている。
正面から誰か来たらきっと、私のパンツは丸見えなんだろうなぁなんてうすぼんやり考える。
だからって足を閉じようとも立ち上がろうとも思わない。
「見えとるで」
逆光に目を細める。
どう頑張ったって見えないものは見えないのだから、私は早々に顔の判別を諦める。
誰なのかは見えなくたって分かる。
「いいでしょ」
目を細めたそのまま、唇の端を吊り上げた。にっこり笑う。
さっくんは眉間に皺を寄せた。
「あー分からない分からない分からないって顔してる~♪」
歌いながらスカートの埃をはたいて立ち上がる。
気分が良くなってきて、その場で一回転してからカバンを摘み上げた。
「特権だからね。短いスカート履いて、男心もてあそんで、パンチラしたって可愛いで済むのって、女の子の特権でしょ」
「まぁ…間違っちゃおらんとは思うけど…ならもっと色っぽい状況ってのがあるやろぉ。男のロマン台無しにすな」
あたしがさっくんの隣まで来たのを確認すると、彼は右足を一歩前へ踏み出した。
何気ない一歩。今度は左足が前へ、次は右足。
いつもそれを何度も何度も繰り返して、私たちは同じ道を当たり前のように一緒に辿った。
やがて足は止まって、彼は「じゃーな」って私に手を振る。
ねえ、あたしが断ったらさっくんはどんな顔をする。
さっくんはどんどんどんどん前へ前へ進んでいって、でもあたしはここから一歩も動かなくて。
動けないんじゃなくて、動かないんだって知ったら、迎えに来ないでそのまま一人で行ってしまう?
気付いてる。
あなたが私を特別な存在だと思ってくれていること。
ごめんね、あなたが思っているほど鈍感でも純粋でもなくて。
さっくんが、さっくんじゃなければ良かったのに。
その首にあたしは両腕を回して、落として、「じゃあねバイバイ」って冷たい言葉と置き去りにする。
切り捨てるのはなんにも怖くない。
さっくんも、そんな存在だったら良かったのに。
「どないした?」
三歩前に進んださっくんが振り返る。
あたしは首を横に振って、
「なんでもないよ」って、
右足を一歩、前に踏み出した。
西日が照らす時間、あたしは怖くて一人じゃ歩けない。
冬でも短いスカートを翻すのは、弱さを晒しても不自然じゃないように。
さっくんの言葉が毛布みたいだから、その声のそばにいると不安が解けるから、
ずるい私は今も気付かないフリを続けてる。
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補足っていうか解説っていうか…(小話で全部伝えろ
るいにとってはさっくんが大事な存在なので(恋愛対象としてではなく)、普通なら一回寝てポイなんだけどさっくんにはそれが出来ないという、ね。
わがままだっていうのを承知でずっとずっとそばに居て欲しいんです(でも恋愛対象としては見られない)
この話は自分にけじめつけようとしたけど(愕くんのことが好きだからさっくんの気持ちには応えられない)、自分が「女の子だから弱い」ってのを理由にして結局今の関係をずるずる続けたままにしちゃう話です。
くっそ、解説しないと伝わらない文章しか書けないのか自分…OTL