現在地点から西の方角に数百メートルほど。いまだもうもうと煙が立ち上り、熱風がそれ以上の接近を拒んでいる。
規模としては建物の一部を破壊した程度で、全壊とまでは至っていない。この建物にどれほどの歴史的価値があったのか、残念ながらこの地を生まれ故郷としないマロウには判断がつかなかったが、それでも近くにいながら事前に防げなかったことは悔やまれる。
この爆発の原因と犯人。普通に推測すれば過激派の連中だろう。特定するには判断材料が乏しかったが、その線で行動して悪いことはない。
過激派組織によるものだとしたら、犯人はまだ近くに潜んでいるだろうか。もしくは遠隔操作で爆破に及んだ可能性もある。
とにかく調べてみないことには手掛かりを得ることすら難しい。
現場に駆け付けたK、トウヤ、マロウの三人は爆発による建物の損壊状況を調査した。
運の良いことに、この場には爆発物の取り扱いに長け、それを己の武器とするKもいる。マロウは、比較的早く自分たちの今後の行動を決められそうだと安堵した。
Kはざっと辺りを見渡し、ある一か所で視線を留めた。その場所へと障害物を避けつつ近寄ると、すっと膝を折ってしゃがむ。
爆心地というと大袈裟だが、どうやらここがいわゆる爆発の火元であるらしい。
確かにどこよりも一番黒く煤けているし、損壊の度合も酷いように見える。とはいえ、その差はわずかなのだが。
「そこが?」
「そ」
「へえ、よく分かったね。さすが」
マロウの問いにKはこともなげに答える。
平時ではふざけた行動が目に余る彼だが、このような仕事ぶりを見るにつけ彼もまたプロなのだと再認識させられる。マロウは感心したように顎に手をやった。
「どうだ?何か分かりそうか?」
「あー、うん」
トウヤは興味深そうに、けれど邪魔にならぬようKの手元を覗き込む。それに対してもやはりKはあっさりと答えてみせた。
「こりゃアイツらだわ」
簡単に言ってしまえば、この爆破の仕方はイッシュの技術でなければ再現不可能らしい。
単に火薬が辺りを吹き飛ばしただけではこうはならない。この爆発跡は、狭い範囲を的確に粉々にしている。
パーツを集めてくっつければ元に戻るような、生易しいものではない。跡かたもなく、元の形を想像することすら難しいほどに。
これだけの破壊力ならば、もっと広範囲を吹き飛ばしていてもいいはずなのに。
まるで、悪意をもって、破壊を目的として。そんな爆発のさせ方だ。
その事実が何よりも、犯人を断定づける所以と言えた。
尻拭いに駆り出されたI.S.Hのメンバーが恥の上塗りをするだろうか。ましてや守るべき立場の政府軍など言うに及ばない。
愉快犯による犯行だとすれば答えは一つ。それがKの出した結論だった。
「奴らはまだ近くにいるかな?」
「かもね。この手の爆破の目的って反応を見たいってのが大きいから、遠隔操作だとしてもこっちに戻って来てる可能性は高いよ」
「そうか」
迷いのないKの口ぶりにトウヤとマロウは表情を硬くした。
近くにいるとするならば、過激派組織と相まみえることも十分考えられる。トウヤは懐からセンサー機器を取り出すとすぐさま生体反応を探った。
「っ!まずい!」
「何?どうしたの?!」
緊迫したトウヤの声に、マロウもビクリと肩を震わせた。自身の腕に巻いた端末のディスプレイを一瞥し、トウヤの言葉の意味を即座に理解する。
「なるほど……」
「これはあんたらの仕業っすか」
頭上から響く青年と思しき声。
端末にはそれと同じ位置に生体反応が一つ。
それはそうだ。ここは彼の地であり、鉢合わせする相手は過激派の連中に限らない。むしろ、爆発を知り真っ先に駆けつけるとすれば、自分たちよりもまず彼らの方だろう。
「自分はトージョウ政府軍、吾繰笑樂。あんたら『いっしゅ』の人間っすよね。答えによってはどうなるか、」
自らを笑樂と名乗った青年は、軽い身のこなしでひらりと屋根から降り立った。
「――分かるな?」
腰に提げた刀がすらりと抜かれる。真っ直ぐに向けられる切っ先。その奥で光る眼光は鋭く迷いがない。
トウヤはごくりと唾を飲み込んだ。
さて、なんと答えたものか。次の手を間違えれば最悪命すら危うくなる。
「俺たちは――」
「あれ?まろんさん?」
トウヤの声を遮るようにして、笑樂のそれが重なる。先ほどとは打って変って呑気な声音に、トウヤは思わずつんのめりそうになった。
「ま、ろ、ん、さ、ん……?」
隣同士で臨戦態勢をとっていたトウヤとKはどちらからともなく顔を見合わせた。
はて?聞き覚えのない名前だ。しかし目の前の青年は、明確にこの場にいる誰かを指して呼んだようである。
そういえばマロウの姿が見えないような……?と視線を巡らせると、ちょうどKの背中にその姿を認めた。顔を伏せ丸くなっている。まるで何かから身を隠すように。
「あー!やっぱり!まろんさんじゃないっすかー!」
どうしてこんなところに?と、青年は意気揚々と歩み寄って来る。向かう先はKの真後ろ。
ここまでくれば『まろんさん』の正体が誰なのか察せないはずがない。
「まwろwんwちゃwんwww」
Kは背後で息をひそめる女装男を振り返りながら、心底楽しそうにニタニタ笑っていると、
「死にさらせ」
地を這うような小声とともに、思いきり足を踏まれた。
「これはどういうことっすか?」
近づく途中、見知らぬ男二人がよそ者であることを思い出した笑樂は、再び眉間に皺を寄せた。
吾繰笑樂という男は裏表のない嘘のつけない性分である。
これは数度この男と対面し会話を交えて抱いた印象に過ぎないのだが、自分の勘を信じていいだろうとマロウは考えた。
この反応を見るに、自分がイッシュの人間であるとバレてはいない。逃げ道を聞いたはずが、どうしていまだこんなところをうろついているのか不審に思われている様子もない。
それを踏まえた上で、無駄な戦闘を避け、かつ事を荒立てずに切り抜けるにはどう答えるべきか。
あくまでも少し困ったような微笑を顔に張りつけたまま、マロウは冷静に策を練った。
「君も爆発音を聞いてここに来たんだろう?俺たちも同じだ。
彼女は俺たちが調査中にここに迷い込んでしまったようでね。ちょうどいい。君が送り届けてくれないか?」
するとトウヤがすっと前に出て、すらすらと口上を並べるではないか。
それは、マロウが誤解されている事実を利用した上で、最も穏便に済ますことが可能な提案であった。
マロウを引き渡すことになるが、彼はI.S.Hに十年在籍するベテランである。それなりに場数も踏んでいる。たとい一人になっても上手くやり過ごせるだろう。
トウヤはちらりとマロウに視線を送ると、彼は任せろと言いたげに小さく頷いた。
さて、問題はトージョウの白い青年がこれになんと答えるか。
素直に是という返事をもらえればいいが、幼く見える外見ほど考えなしにも見えないのだ。
「いいっすよ」
彼のその答えに、イッシュの三人がほっと息をついたのも束の間。
「ただし、あんたらには俺らの本拠地に来てもらう」
「はあ?それって!」
「K!」
今にも掴みかかりそうな勢いで一歩踏み出したKを、トウヤは慌てて制止する。
当然と言えば当然なのだが、この笑樂という男、自分たちをまるで信用していない。過激派組織の一味として扱い、見逃す気はさらさらないように思える。
マロウを連れて逃がしてくれれば重畳だったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
かといって笑樂の言いなりになるわけにはいかない。こちらにも立場がある。
イエスと答えてのこのことついて行くこと、これすなわち自首である。冤罪を自ら受け入れたようなものだ。
事情を説明したところで弁解にしか映らない。過激派の処遇について、上の交渉がどう進んでいるのか分からないとあっては、イッシュに帰してもらうことすら難しいかもしれない。
そもそも、そのような帰還要請手続きなどで上の手を煩わせること自体、部下としてI.S.Hのメンバーとして如何なものか。
この程度、己の手腕でくぐり抜けてみせよ。
トウヤは拳を握った。
ちょうどその時だ。手の中の端末がかすかに震え、直後耳につけていた小型通信機が音声を拾った。
ああ、そうだ。なにも一人ではない。今は仲間もいる。
頷くと、トウヤは強い意志をその瞳に宿し、前を見据えた。
「その条件を飲むわけにはいかない」
「ならどうなるのか、分かってんすか?」
「ああ。だが、そうなった場合、君はどうなんだ?2対1では君に分があるとは思えないが」
トウヤの牽制に対し、笑樂は腰を落としながら刀を構えた。その表情はいまだ余裕を崩さない。
「それならそれなりのやり方、ってのがあるんすよ」
今にも地を蹴りかねんとしたその時、「あーーー!!!」と大きな声が響き渡った。
笑樂の肩はビクリと震え、思わず刀を取り落としそうになる。
声の主はKだ。
「ちょっと!トウヤ!あっち!」
Kはトウヤの肩をバシバシと叩きながらまくし立てると、「早く!!」とその背を思いきり押した。
笑樂は突然の事態に目を白黒させるしかなく、Kとトウヤの様子を呆然と目で追っていた。
黒髪の男、トウヤは手の中の端末に目を落とすと、瞬間はじかれたように走り出した。
「まっ、待て!!」
敵が一人逃亡した。反射的に飛び出そうとして、笑樂の動きが止まる。
ただの一般市民である彼女ならば気が動転して足がすくむのも分かるが、目隠れの『けい』と呼ばれた男もまたその場を動こうとしないのだ。
逃げた男の後を追うべきか、それともここに留まるべきか。トージョウの民を守る政府軍の一員として相応しい行動とは。
「追わなくていいわけ?」
「俺があんたら置いて追えると?」
笑樂は留まることを選んだ。
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マロウは策を練った。
いかにして今の局面を乗り切るべきか。
まずは整理からだ。
今の状況、起こりうる事態、そして取るべき行動。それに即していくつかのケースを想定すべきだろう。
I.S.H3に対して政府軍1。
出来る限り話し合いで解決したかったが、穏やかでない笑樂の発言を顧みれば、戦闘になだれ込む方向で一計を案じるのが良さそうだ。残念なことであるが。
彼はマロウと面識がある。今現在は地元の遊女だと勘違いされているが、それ以前に彼と出会い、彼の口から彼自身について話を聞いたことがあるのだ。
具体的には一部の武器の使い方など。手の内の一端を握っていると言っても過言ではない。これは重要なファクターだ。慎重に扱いたい。
この事実を思い出されたら厄介だが、忘れている内はこちらの有利に変わりはない。彼が鈍いことに感謝して最大限利用しよう。
さて、次にこちらの戦力である。
正直なところ、笑樂と1対1で対等にやり合えるのはトウヤ一人だろう。普段ならばKも渡り合えるのだが、今の彼には武器がない。あるにはあるが自分が先ほど3Dプリンターで出力したポンコツ……『さいきょうの刀』のみである。まるで戦力にならない。
ちなみに戦闘員ではない自分など論外だ。右肩にステルス機能で透過済みの3Dプリンター(通称サンディ)を提げてはいるものの、これはあくまで便利グッズの範疇である。武器ではない。
もし二組に分かれるとすれば、Kとマロウが一人になることはなるべく避けたい。
マロウはさっと前後左右に視線をくれた。
前後は路地。そこそこの広さをもった、けれど大通りとまではいかない、準メインストリートといったところだろうか。
前方は真っ直ぐ行けば大通りに突き当たる道であり、途中途中左右に抜ける小道もある。
後方は行き止まりになっている。ただし壁というわけではなく、崖のようなもので、屋根を飛び移ったり、空を飛べれば先へ進める。
左右は建物。右は一階の一部を爆破された建物で、左は扉を閉ざした古めかしい木造家屋。
そこまで思考を巡らせて、マロウは先のKの発言を思い出していた。
『この手の爆破の目的って反応を見たいってのが大きいから、遠隔操作だとしてもこっちに戻って来てる可能性は高いよ』
彼はそう言った。
つまり、ここにさらに過激派の連中が現れ、三つ巴となる事態も容易に想像できる。
仮にそうなった場合どう対応すべきか。
優先順位を思えば、マロウはこう対処するのが最善だと考えた。
そうして打ち出した策を、マロウは笑樂に勘づかれぬよう細心の注意を払い、Kとトウヤの二人に通信したのだった。
『過激派が現れた場合のケースA、現れなかった場合のケースB。この2パターンを想定する。
ケースAでは、過激派はトウヤ、君に一任する。逃げたら後を追え。攻撃されたら君一人で応戦してくれ。Kと僕の二人は、残って政府軍の彼をなんとかする。
ケースBなら僕ら三人で応戦しよう。隙を見て逃げる。
A、Bどちらを実行するかは、僕が合図を出す。いいかな?』
結果は、ケースBになりかけたギリギリで、Kが光学迷彩を解いた過激派を発見。急きょAを実行と相成った。
後方へ飛びすさったトウヤの動向を物音で確認したKとマロウは、改めて笑樂と対峙した。
ケースAの場合二人で『なんとかする』と伝えたわけだが、その『なんとか』の部分も考えてはいるのだ。
ただ、これには如何せん笑樂の“隙”が必要不可欠だ。問題はその“隙”をどうやって作り出すか。
このままでは事態が膠着するばかり。
「……」
「……」
ところでなぜ両者ともに押し黙ったまま動けないのか。とくに、笑樂がなぜ敵と認識したKを斬り伏せることができないのかと言えば、Kの左右の手それぞれに目を向けていただければ納得いただけよう。
右に見た目はカッコイイ刀。左に見た目は着飾ったトージョウの女。
敵に人質を取られた笑樂は手を出すことを許されなかったのだ。
(さーて、どうしたもんかなぁ)
一度大声を出して気を逸らせたものの、同じ手に二度も引っかかってはくれないだろう。そもそも、今誰よりもこの笑樂という男に神経を注がれているのは他でもないKだ。
ならば行動を起こせるとすればマロウなのだが、それができず内心地団駄を踏んでいる。Kが注目されているということは、自分もまたしっかりと笑樂の視界に収まっているということ。下手をすれば全てが水の泡だ。
手の内ならば分かる。彼の取るであろう初手の一撃も予測できる。
あとは、隙さえつければ。
「……いつまでそうしてるつもりっすか」
ざりっと笑樂の靴が足元の土を滑らせた。
その時だ。
「みんなーーーー!!!ノってるーーーー?!?!?!!!」
キィンと放送が乱れたようなハウリングが耳をつんざいた後、少女の声が高らかに空を割った。
すっかり耳馴染みになった明るい声。Kとマロウは、姿は見えぬ、けれど響き渡る歌声の主に心密かに感謝を述べた。
「え?」
突然大音量で音楽と歌声が流れ出したのだ。初めて聞く者が動揺するのも無理はない。
“隙”をつくには十分だった。
Kは、笑樂の正面まで一気に距離を詰め右腕を掴むと、すぐさま刀を叩き落とした。さらに間髪入れずに腹を蹴り飛ばす。
「ぐっ」
不意打ちゆえ勢い良く後方に吹っ飛ばされたものの、なんとか急所は外した。受け身は取れた。
一回転して体勢を整えると、反撃だとばかりに、笑樂は懐のクナイに手を伸ばした。
そこで体が固まる。
キラリと光を反射させて、銀色の物体がこちらに飛んで来るではないか。
一瞬疑問符が脳を占めたが、すぐにその正体が刀であると気付く。
ようするに、目の前の男、なんと刀を“投げた”のだ。
(なっ!あの大きさを…?!)
短刀や脇差ならば分かる。しかしあの刀は確実に太刀以上のそれだった。
鍔にも豪奢な装飾が施され、相当な重量であると推測された。
それを、片手で、いとも容易く。
ふうわりと放物線を描いて、刃先がこちら目がけて降って来る。
勢いはないものの、放っておけば確実にぶっすりやられる。それに、見た目は刀でも、自分たちの理解では及ばない、超越的な技術を持つ国の武器だ。
笑樂はじりじりと銀色の軌道から逸れる場所に移動した。そこから目は離さずに。
同時に、男への警戒も怠らなかった。
あらかた投げた刀に注意を引きつけ、自身へ警戒が向かぬようにという算段だろう。乗せられるものか。
宙を舞う刀が地面に衝突する。続く、パキンと軽い物が割れるような音。
(……え?!)
予想を裏切るなんとも軽い響きだった。
確かに笑樂は、それで一瞬動揺した。
その隙を見逃さず、Kが笑樂の間合いへと踏み込んでくる。
鳩尾に踵が飛んできたところで、
「甘い。」
笑樂は上半身を引いて、その一蹴りを綺麗に避けきった。
会心の一撃が空振りとなったKはバランスを崩しつつも、なんとかころりと受け身を取る。
「なにこの反射神経!恐いんだけど!」
「お褒めに預かり光栄っすね!でもそんな無駄口叩いてる暇ないっすよ?」
Kが起き上がるのを待たずに、笑樂の肘が空を切った。
あと数センチでKの横面に直撃する。
はずだった。
自分の手の甲への感触よりも先に、後ろ首に衝撃が落ちた。続けざまにドサリと体が倒れる。
確かに目の前には地面に両の手をついた、前髪の長い男がいるのに。
ならば、なぜ?誰が?もしや増援か?
グワングワンと脳みそが揺らされているようだ。どうやら首の後ろに手刀を叩き込まれたらしい。
相手は気絶させる気だったようだが、笑樂はあいにく普通の人間とは異なる。半分妖怪の血が混ざった半妖だ。人よりだいぶ丈夫にできている。
とはいえ、今のは効いた。まともに頭が働かない。
「やっぱりK一人じゃ厳しかったね」
頭上の声にはっとして、倒れたままそちらに目を向けると、そこには先ほどまで男に捕えられていた『まろんさん』の姿が。
まさか、彼女が?
「まろんちゃんナーイス!」
「うるさいなぁ、その呼び方やめてよ。ほら、行くよ」
「へいへい」
彼らの会話をぼんやりと耳で受け止めて、ようやっと事態を飲み込めてきた。
騙されていたのだ。彼女もあいつらの仲間だ。
これが彼らの策ならば、自分は完全に嵌められた。敵は『けい』という男一人、そう思い込んでいたのだから。
視界の隅を走り抜けてゆく異国の履物。
なんと無様な。このまま彼らの思い通りにみすみす逃がすつもりか?
なあ、笑樂よ。お前は本当にそれでいいのか?
(逃がさない……!!)
笑樂は精一杯腕を伸ばした。
翻った着物。くそ、わずかに届かないか。それでもがむしゃらに掌を握りしめ――。
奇跡とは存在するものらしい。
虚空しかなかったはず。しかし、彼の右手は確かに何かを掴んだのだった。
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