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それなりに長さのある文章置場兼描いたもの置き場。 よそ様のお子さんをお借りすることもあります。その時は親御さんの名前を明記いたします。
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これに関してはお題には沿えたけど、いちゃいちゃは消えたと胸を張って言える。
……あ、いや、見ようによっては?いけるか?!

9.昨日の夢で、

まだ完全に思い出せてないけど、ネリーナの過去に踏み込み。
一部残虐な表現を含みます。暗いの苦手な方はご注意ください。

フィンバーくん(@いるかさん)
お子さんお借りしました!書かせていただきありがとうございます!













遠くでなき声が聞こえる。
ネリーナは目元をこすりながら体を起こした。
窓辺に寄ると、小鳥が枝から飛び立つ姿が目に入った。白い羽根がふわりと舞う。
あまりに朝日が眩しく、カーテンを揺らす風が清らかだから、ネリーナは顔を伏せて小さくわらった。


ただの勘でしかなかったが、なんとなく自分の予感が当たる気がした。

ネリーナは、朝からせっせと店に出す料理の下ごしらえを進めていた。
いつもメニューは日替わりで気まぐれだ。実質店を回しているのはネリーナであるため、彼女の気分次第でその日のメニューが決まる。目当ての料理のある客にとっては不都合極まりないだろうが、客の大半はリピーター。場当たり的なそれも良さの内、と大目に見てもらっている。
まあ、料理なんて二の次で、飲めればそれでいい、という者も少なくないのだが。

はてさて、今日のメニューはというと、とある人物の好む品ばかり。

ネリーナの予感。それは、『きっと今日、彼はこの店を訪ねてくる。』というものだった。
何も数年ぶりの来店というわけではないから、虫の知らせとも違う。かと言って、毎日来るわけでもないので、もれなく当たる抽選と似ていることもない。


正午を過ぎた頃、朗らかな声が店の戸を叩いた。

「ごきげんよう、ネリーナ殿!何か食事の提供をお願いできないだろうか!すっかりお腹が減って今にも背中にくっついてしまいそうなのだ!」
「ふふ。いらっしゃい、フィンバーくん」

ほうら、予感が的中した。
くるくると忙しなく動く彼の眉や口や腕の様子を見ていると、つられて表情が緩んでしまう。フィンバーと話をする時のネリーナは、他のどんな時よりも明るい顔をしていた。

「やや!!この匂いは!」
店の入り口から、ダダッと厨房まで駆け寄ってカウンターに身を乗り出す。

「大正解。マトマソーススパゲティ、フィンバーくん好きって言っていたでしょう?ちょうど作ったところなの」
「それはありがたい!食べても…?」
「もちろん」

瞬間、パッと弾けるように目を輝かせる。
同じ空の下で、同じように陽の光を授かっているはずなのに、彼と自分とではどうしてこんなにも瞳の輝きが違うのだろうかと、ネリーナは時々とても不思議に感じる。
いつだってキラキラ瞬く。きっと彼の目にはこの世界も、ずっと美しく映っているのだろう。

守りたいな。
もっとたくさん、もっとたくさんの綺麗なものを彼の前に差し出したい。

たとえば、大皿に載ったこのスパゲティとか。

「おいしい!」

たとえば、野菜をごろごろ煮込んだこのスープとか。

「こちらも!おいしい!この白い…ほくほくとした…」
「じゃがいも?」
「それだ!皮の食感にびっくりするがそれがいい!」

たとえば、しっかりと焼いた濃い味のプディングとか。

「デザートもあるからね」
「ネリーナ殿!!なんてことだ!先ほどから私の好物ばかりがテーブルをひしめき合っているのだ!このままでは虫歯になってしまわないだろうかっ!」

フィンバーは真剣そのものの顔つきで、ネリーナの手をその両手できつく握り込んだ。
ころころ変わる表情の持ち主だから幼い印象を抱きがちだが、意外にも力強い。彼の迫力に気圧され軽くのけ反りながら、ネリーナは返事をする。

「そんなことないから大丈夫。お腹いっぱい食べてね。」

では遠慮なく!と、フィンバーは満面の笑みで頷いた。


「ネリーナ殿、ごちそうになった!やはりどの料理も大変美味であった。さすがネリーナ殿であるなあ!」
「どういたしまして」

帰り際、ネリーナとフィンバーは、二人の間では別段珍しくもない会話を交わしていた。
いつもと少しばかり違ったことと言えば、「そういえば、」と切り出したフィンバーの続く言葉であろうか。

「良い事でもあったのかい?」
「……なぜ?」
ネリーナは鳩が豆鉄砲を食らったようにまばたきをした。

「プディングの味がいつもより甘かったのだ!いつもの味も好きだが、私はこちらのほうがより好きだと感じたものでね!そうか、これはネリーナ殿にも良い事があったのでは?と考えた次第なのだ!」

ああ、なるほど。確かにその通りだ。いつもより砂糖を多めに入れた。
ネリーナはフィンバーが甘い物好きであることも知っていたからだ。けれど、フィンバー好みの甘い甘いプディングを店に出したことはない。理由は単純。甘さが過ぎるから、だ。

「そうね。似たようなものかしら」
「やはり!」

店に来た時と変わらず快活に笑う彼に手を振って送り出す。その背が見えなくなるまで。


「ネリーナ」

フロアに戻ると、この店の主に声をかけられた。どことなく硬い声音。ネリーナの気のせいでなければ。

「嫌な事でもあったか?」

彼は店の主であると同時にネリーナの育ての親でもある。他のどの知り合いよりも付き合いが長いということは、どんな些細な変化であろうと見破ってしまうということも意味した。

細かいことなど気にしない豪快な性分に見えるが、本質は人の心に敏いしよく気が回る。
的確なところを突いてくるものだ。

「それとも、夢か?」
「どうして」

そう思うの?と、言い切る前に彼は察してしまう。

「そうだな、いくつか挙げたらぁ。落ち込むと笑顔が多くなる。作る料理の量が増える。デザートが甘くなる。どうだ?」

ネリーナはあいまいな笑顔を作って返事の代わりにした。





昨日見た夢の話。

私は雪原に一人立っている。右手にはナイフを、左手にはごうごうと燃え盛るたいまつを持って。
白いもやの向こうから、見たこともない服を着た少年が歩いて来る。
私は地面を蹴って、右手を大きく振りかぶって、少年の胸にナイフを突き刺した。少年は後ろに倒れ込んで、真白の雪原は血で赤く染まった。動かなくなった少年に、私はナイフを振り下ろす。何度も、何度も。
二度と起きてこないように。死んだという確信が持てるまで。
私は殺した。罪のない少年を殺した。
なぜ?
あれは異教徒だ。殺されて当然。悪くない。私のしたことは正しい。あれは異教徒だ。殺していい。大丈夫大丈夫だいじょうぶ。わたしはただしい。
火をつけた。鼻がもげそうな強烈な臭い。
焼けゆく様を見下ろしていると、もやの向こうにいくつかの影を見た。定かでなくともそれが何か知れた。家族や仲間たちだ、私が殺した少年の。
遠くで泣き声が聞こえる。酷い言葉で罵倒しながら泣き叫ぶ声が聞こえる。
そこで目が覚めた。


昔からたびたび見る悪夢であった。夢の中でネリーナは何度も人を殺している。
きっと自分は異常なのだ。
恐ろしくて、信頼する育ての父にも話せたことはなかった。
ネリーナは12歳以前の記憶がない。
この悪夢はそんな自分の過去と関係があるのではないか。そう考えることもあったが、深みに嵌る前に考えに蓋をした。
気にしないフリを続けて、今の幸福に縋っていた。

もう、見て見ぬフリはできないところまで来てしまったのかもしれない。
次第に鮮明さを帯びてゆく夢が、思い出せと訴えている。

予感がする。
この幸福は長くは続かないだろう。
明日にもここから出て行かなければならないかもしれない。店を一歩出れば、ネリーナが過去に傷つけた者の恨みを買って刺されるかもしれない。
大好きな彼とももう会えなくなるかもしれない。

今の恵まれた生活が刹那の奇跡なのだとしたら。今できることを、やりたいことをしようと思った。


遠くで泣き声が聞こえる。酷い言葉で罵倒しながら泣き叫ぶ声が聞こえる。
逃げ去りたくて髪を振り乱すと、涙で頬が濡れていることに気づいた。ネリーナは目元をこすりながら体を起こした。
救いを求め、這うように窓辺に寄ると、小鳥が枝から飛び立つ姿が目に入った。白い羽根がふわりと舞う。
あまりに朝日が眩しく、カーテンを揺らす風が清らかだから、ネリーナは顔を伏せて小さく嗤った。








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