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それなりに長さのある文章置場兼描いたもの置き場。 よそ様のお子さんをお借りすることもあります。その時は親御さんの名前を明記いたします。
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お題に沿って文章を書こう!

3.体を、ぴとっ

両片想いさわちえ~!遠足で遊園地に行く話。
漫画じゃないけど気分は少女漫画。
モブキャラがいっぱい出てくる。

ちえちゃん(@scheさん)
お子さんお借りしました!書かせていただきありがとうございます!















普通に高校生活を送っているだけならば、異性の体に触れる機会などまずない。同性ならば腐るほどあるというのに。
とりわけ女子同士ではそれがさらに顕著だ。意識して観察していなくても、出会い頭の挨拶や日常会話に織り交ぜるようにして、ハグをはじめとしたボディタッチの場面に出くわす。
あんなに簡単なことなのに、どうして男と女というだけで世界最高峰のあの山レベルに難しくなるのだろう。

「要するに、ちえちゃんに触りたい、と」
「ザッツライト!」

俺がちえちゃんを好きになってから一年が経とうとしている。まだ恋人同士にはなれていない。
俺はちえちゃんのことが大好きで大好きでたまらなくて、それ以外の女の子なんてありえないと思っている。強く思ってはいる。が、ちえちゃんが俺のことをどう思っているのかは分からないのだ。

高二に上がり同じクラスになれた日のことは、昨日のことのように記憶に新しい。なんせ、俺の中では間違いなく、今世紀ダントツ一位のビッグイベントだったからだ。神様と仏様とマリア様と八百万の神と…とりあえず思いつく限りの神々に感謝の祈りを捧げた。

今までは違うクラスで、会えるチャンス自体が極小だった。全校集会とか合同授業とか廊下でたまたますれ違うとか。こっちは目で追っていたけれど、向こうはきっとこっちの名前すら知らなかったに違いない。良くてアフロの人、で顔を覚えてもらっていたかも?程度。(第一印象はインパクトが大事!と、高校デビューと同時にアフロヘアーにしたのだ。)

始業式の日、帰宅するなり人気モデルの雑誌の切り抜きを握りしめヘアサロンに駆け込んだ。
俺は本気だった。本気でアプローチしようと胸に誓ったのだ。

「それがどうして手もつなげない。」
「それな。他人から言われるとイラッとするけどな。」
「計画では今頃、放課後デートで一緒にクレープ屋寄って半分こする予定だったんだっけ?」
「半分こじゃない!二つ買って一口ずつ交換して味の感想言い合うの!」
「くそどうでもいいわ」

小学生以来の親友からぞんざいにあしらわれるのも慣れたものだ。
気にせず本題に話を戻す。

「さっきも言ったけどな、つまり、ちえちゃんに触れたいんだよ!触れるっていうか、接近イベントに遭遇したい!事故チューとかラッキースケベ的な高望みはしないから、とにかく!接近イベントが!欲しい!!」

だから何かアイディアください!!と、俺はスマホ越しに親友の前で土下座し乞うた。
愛想はないが無駄に頭のキレるヤツだ。なんだかんだで最終的には力を貸してくれる。頼りになるヤツなのだ。

「そういや今週末、春の遠足があるとか言ってなかったっけ?」
「うん、ある。……あ!そっか、そこで」
「そ。何かしらチャンスあるんじゃないの。ベタだけどさ、お化け屋敷とか満員電車とか。ま、そのへんプランによるだろうから余計難しいかもだけどね」
「聞いてくれ」
「なに?」
「なんと、遊園地に行く。」
「神はいた。」
「しかも路線バスに乗って行く。」
「ジーザス」



知恵をつけた俺は臨戦態勢で当日を迎えた。
春の遠足はほとんどの時間が班別行動となっている。
これがもし、ちえちゃんと別の班であればお先真っ暗、開幕直後に閉店ガラガラの大問題となっているところだが、そこは抜かりない。ちえちゃんと同じ班はすでに勝ち取っている。
日頃の行いが良いからだ。ありがとう田中。俺がいかにちえちゃんを好きか、ことさらに刷り込んでおいて良かった。お前の分まで班長がんばるよ。

色々と、そう色々とあって、話せば長くなるので、ダイジェストでお送りしたい。
とりあえず結果から。人生とはままならないものである。それを思い知らされた半日であった。

滑り出しは上々。私服のちえちゃんは天使だった。
同じ班の貝瀬からデレデレなのが顔に出てる、と指摘されたので意識的に眉を吊り上げたが十秒と持たなかった。天使を視界の隅にとらえてしまったのだ。仕方ない。

まず何が誤算だったかといえば、乗り込んだバスが始発だったことだろう。それをバス停の先頭で待っているのである。
なんということでしょう。確実に座席に座れてしまう。なんなら乗客が増えてくるまで隣の席に荷物を置いたって責められない。
ぎゅうぎゅうに押し潰されて、あわよくば壁ドンのような体勢?何をどうやって無茶したらそうなれる。

こうなったら隣を確保だ!
意気込んでいたら、バスの出発時刻まで残り1分少々というところで貝瀬がトイレに行ってくるとほざきやがる。
ギリギリ間に合いはしたが、ちえちゃんたち女子組には先に乗っててと伝え、自分はドアの前で貝瀬を待っていたため、走り出す頃には当然のように貝瀬と隣同士。遊園地までのそこそこ長い道のりを男二人でそれはもう楽しく過ごした。

いっそ笑えるのは、これがほんの序の口に過ぎなかった、ということだろう。

目的地に近づくにつれ、車内も混雑してきた。
ただでさえ、ちえちゃんとの距離が話すのも難しいほどに引き離されブルーだというのに、こう人が増えては大きい声を出すわけにもいかない。
さらには、だ。泣き面に蜂とはよく言ったもので、こういう時に限って座っている目の前に杖をついたおじいちゃんが立ったりする。

「あの、よかったらどうぞ」
「いいのかい?ありがとうねぇ」

ぎゅうぎゅうに混み合う車内で吊革にしがみつき、すぐ間近に感じるのは、ちえちゃんのシャンプーの匂い…ではなく、無情にもバーコード頭のおっさんが食った餃子の臭い。こんな接近イベント、誰が望むものか。


降車際、両替でもたつく貝瀬にやきもきしながら、なんとか目的の遊園地に到着。
園内のパンフレットを開き、お化け屋敷があるか確認する。
よし、あった!さすがに入園して早々直行するのは、意図がバレていないとしても下心が透いて引かれるのではないか。
というか、俺の方がなんかこう、照れとニヤニヤとで平静を保つのが難しいので、一旦別の何かを挟んで気を紛らわせたい。

「どこ行く?」
「ジェットコースターはきっと並ぶよねぇ」
「この辺とか空いてそうだけど」
「スワンナボート?ガキっぽくない?」

貝瀬は黙っていてほしい。
俺は気を取り直して、皆の意見を静かに聞いていたちえちゃんに、どう思う?と話を振った。

「あ、えっと……わたしは、これが気になるなぁ」
そう指をさしたのは、占いの館。
おおおー!すっごく女の子らしい!さすがちえちゃん!

「よし!じゃあそこ行こう!」
「えっ?あ、別に今すぐじゃなくていいよ…!その、どこかでちょっと立ち寄れたらそれで…」

手を顔の前で必死に振る。そんな控えめなところも好きなんだよなぁと、砂漠でオアシスを見たような心地になる。

「いや、ちょうどいいと思うよ。この時間帯なら並ばずに済むだろうし。ナイスアイディア!」
「そうかな?ふふ、ならよかった」

ふにゃりと笑うちえちゃんの女神っぷりときたら……後世に語り継がれるレベルだ。
この時は笑顔を見れただけで膝をついてガッツポーズものだったのだが、よくよく考えたらあそこでさりげなくハイタッチできたのではないか。膝をついて項垂れたくなった。

これまでの流れから予想はできていたが、占いの診断結果はご想像の通り。おみくじで言うところの大凶。突出して恋愛運が散々な書かれようであった。
所詮は占いだ。当たるも八卦当たらぬも八卦!気にしたところでろくなことはない。

ちえちゃんの方を見ると、同班の女子の夢野と何やら楽しそうに話している。良い結果だったのだろうか。
それならいいか。占いの館に来てよかった!


緊張もほぐれたことだし、いざ大本命のお化け屋敷へ!とばかりに、班の皆に次のアトラクションの提案をしてみた。意気揚々と急く気持ちを悟られないように、努めて落ち着いて。
そこで事件が起きる。

「ごめんっ!こういうのほんっっとダメなの!」

やらかしたのはまたしてもこの男……貝瀬、であったらどんなに良かったか。
問答無用で一人残し、残りのメンバーで乗り込んでいたというのに。

現実は非情である。このセリフを口にしたのが、よりにもよってちえちゃんと仲の良い夢野だったのだから。
少しばかりお勉強の不得意な俺でも分かる。この後の自然な展開を導き出せ、という設問に対する答えが。

「じゃあわたしも一緒に待ってるから。清水くんたち男子だけで行って来て?」

こうなる。

分かってる!分かってた!!
言い出しっぺは俺だから、「じゃあ行かない。俺も一緒に待つよ。」となるのも変だし、苦手だと言う夢野を無理強いできるはずもない。そんなことしようものなら好感度が急転直下だ。

「分かった!行ってきまっす!」

無理矢理口角を上げて笑顔を作ると、わざとらしく敬礼をしてみせる。内心盛大な溜息を吐き出しながら、男だらけでお化け屋敷の入り口をくぐった。

一切の邪心なく純粋に、おどろおどろしい雰囲気といつ出てくるか分からないハラハラ感を楽しんでしまった。格好を気にする相手がいないから好きなだけ騒げる。出口を走り抜ける頃には涙まじりに大爆笑していた。

いやいや、だからこんなことをしたかったわけではないのだ。
おばけに驚いて、つい隣を歩いていた俺にぶつかってしまったり、「怖いから近くにいて」と服の袖をつまんだり。あわよくば体をぴとっと密着させる。
そんな甘酸っぱい接近イベントを求めていたのに!なんだこれ!

「清水くん、楽しめたみたいだね」

出口で待っていたちえちゃんが微笑んで出迎えてくれる。
その笑顔がどことなくぎこちなく見えたのは俺の気のせいだっただろうか。


随分と長く感じられる半日であった。

もう時間も迫ってきていたので、最後に土産物店に寄り、各自自由に買い物、という流れになった。
なんの気なしにぶらぶらと物色していると、ちえちゃんの背中が見えた。辺りを見回すが、夢野の姿はない。

「よっ」
「清水くん」
「ああ、それ、ここのマスコットキャラクターの」
「そう」
「あんまり可愛くないよなぁ」

ぬいぐるみを手に取って、ちえちゃんの顔の前で片手を上げる仕草をさせる。
すると、ちえちゃんがふふっと吹き出した。
よっしゃ、成功だ!

「清水くん正直。でもわたしもちょっとそう思ってた。」
「だよね!こんなにたくさん色んな種類のグッズ作っちゃってまあ。あ、ちえちゃんあれ見て!」

口に出してしまってから、まずった!と体が硬直した。
横を向くと案の定、ちえちゃんが大きな目をさらに大きく見開いてこちらを見上げている。

俺はいつも親しみを込めて、「ちえちゃん」と呼んでいる。だがそれはあくまでも友人間と脳内に限る話であり、本人の前でちゃん付けで呼んだことは一度たりともなかった。
それが許されるほどに距離を縮められている自信がなかったからだ。

「ごめん、馴れ馴れしかったよね?嫌だったでしょ?」
肩をすぼめて謝った後、今度は苗字で彼女の名前を呼び直した。

「……あ。ううん、嫌じゃなかった!き、きにしてないよっ」
俺の目にフィルターがかかっているからだろうか。ちえちゃんの言葉が取り繕っているのではなく、本心のように思えた。
だったら。その言葉を鵜呑みにしてもいいのなら、勇気を出して踏み込んでみてもいいだろうか。

「じゃあさ、これから『ちえちゃん』って呼んでもいい?」
「うん。」

神はいる。
俺という、いたいけな子羊を見放してはいなかった。

「やった!ありがとう!うれしい!……えっと、では早速…ゴホンッ。ちえちゃん!!」
「ふふ。なあに?」

無理。
うそ、無理じゃない。ちえちゃんが可愛すぎて世界がまぶしい。可愛くないマスコットキャラクターも、どことなく愛嬌があるように見えてきた。お前めちゃくちゃ可愛いよ。

「あのさ、俺のことも苗字じゃなくて、あだ名で呼んでくれたらな~なんて。一応みんなからは『さわち』って呼ばれることが多いんだけど」

さりげない風を装って、あだ名呼びをオススメしてみた。下の名前呼びを許可してもらったのだ。せっかくならこちらも親しげに呼ばれたい。
そわそわしながら、じっとちえちゃんの返事を待つ。

「あ、それは……」

その一言で浮足立っていた心が、むんずと足首を掴まれ地面に叩き付けられたような感覚に落とされる。
まさかここでNGが出るとは予想だにしなかった。何がちえちゃん的にノーだったんだ?!『さわち』の“ち”が、『ちえちゃん』の“ち”と被るところ?!

「あ!違うの!そんな意味じゃなくって!その、“清水爽治(しみず さわはる)くん”でしょ?だから、ずっと『はるくん』って呼んでみたいなぁって思ってて……め、めいわくでなければ……」
「…………」
「ごめんね!わたしのほうこそ、馴れ馴れしかったね」

これは、夢だろうか。
自分で自分の頬をつねる。痛い。もっと強くつねる。すごく痛い。
夢じゃ、ない!?!?!

あーーーーーーちょっと、ちょっと待って!待ってて!!
なんて、なんて答えたらいいの!?大興奮と感動のスペクタクルが今、俺の胸を壮大に駆け巡ってるんだよ!!
早く答えなきゃ不安にさせちゃう!分かってる!けど、こんな時ばっか言葉が出てこないんだよ!!まったくもうポンコツだな、俺は!!

「そんなこと」
ない、と言いかけて、続く言葉は喉を引き返した。

「きゃっ」

ちえちゃんの体が俺の胸に飛び込んできたからだ。
ぽすりと柔らかな衝撃。ふわっと香るシャンプーの匂い。俺は砂糖のようだと思った。

要は誰かがちえちゃんにぶつかって、ちえちゃんはよろけて俺に寄りかかってしまったんだろうけど、あの一瞬でそこまで理解するのは困難と言えた。

ただただ、ちえちゃんの体温と感触にどぎまぎして、肩に触れることも言葉をかけることもできず、固まっていた。
十秒も経たないうちに離れたのだろうけど、一瞬が永遠にも感じられた。
今も頭がフワフワしている。

心の中で今の場面を巻き戻してみる。

ちえちゃんがよろけて俺の胸にもたれかかる。
すぐさま「ごめんなさいっ」と離れるかと思えば、俺の服を控えめに握り、額をすり寄せるようにして動かした。
そして、ハッという効果音がつきそうな勢いで飛びのく。
「はるくん、ごめんっ」
その顔は耳まで真っ赤だった。


例えばの話。

ちえちゃんが占いの館に行きたがったのは気になる男子がいたから。
あんなに嬉しそうにしていたのは、診断結果の恋愛の欄に良い暗示が載っていたから。
お化け屋敷の出口で迎えた笑顔がぎこちなかったのは、小さなやきもちを焼いたから。
『はるくん』と呼びたいと思っていたのは、俺と同じでその男子のことを目で追っていたから。
抱き留めた時にすぐ離れなかったのは、離れたくなかったから。

そして今、俺と距離を取って隣を歩くのは、恥ずかしくて目が合わせられないから。

それはきっと、俺にとって最も都合のいい解釈だ。
どうしようもなく浮かれてうぬぼれてるんだろう。
だけど俺はバカだし、楽観的だから、それでいいやと思っている。

切に願うのだ。
ちえちゃんも俺のことが好きだったらいいなぁ、と。





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