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それなりに長さのある文章置場兼描いたもの置き場。 よそ様のお子さんをお借りすることもあります。その時は親御さんの名前を明記いたします。
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九華と絢様の出会い話、導入編。
九華しか出てこない+これ読まなくても次の話に支障ないので読み飛ばし推奨です。

しかしじろさん宅六華さんのことは御借りしています。






8月の太陽がジリジリと肌を焼くある日の昼下がり。
きっとこれを『炎天下』というんだ、なんて額に次から次へと滴る玉の汗を手の甲で拭って、九華は坂を上る。
あんまり暑いから、この日はノースリーブの薄手の服を着てきた。
それなのに汗は留まることを知らなくて、前髪は水を被ったわけでもないのにぐっしょり濡れた。

手のひらをかざしながら空を仰ぐ。そこには青い空にひと際目立つ真っ白な光。

太陽だ。


九華は目を細めながらじっとその白い光を見つめた。目が痛みを訴える限界まで。

一体どのくらい我慢できたのか。分からないが、九華には白い光が黄色にも見えると思った。
そう思って、思ってしまって、いや、思おうとしたのかもしれない。

結局、自分は忘れることなどできないし、このどうしようもない執着心を絶つことはできなかった。
まるで呪縛のように脳にこびりついて離れないのだ。

彼女の言葉が。六華の言葉が。九華の唯一無二の双子の姉の言葉が。


『九華は太陽の華ね』


彼女は九華のことを太陽のようだと言った。
明るく皆を照らす暖かい光だと。

誇らしかった。
なによりも、大好きな姉にそう言ってもらえたことがくすぐったく、どうしようもなく嬉しくて。

姉はこうも言った。
太陽に向かって咲く華。向日葵とも似ている、と。

だから実は、ヒマワリの花を見かけるたびに、「ああ、私の花だ。」とちょっと得意な気分になっていた。


回想を終えた頃には、九華はもう太陽から目を逸らし、目前の長い長い坂道を見つめていた。
内心少し後悔していた。たまの休みなのに、こうして一人で炎天下の中をただひたすら歩いているのだから。

電車とバスを乗り継いで、九華はとある場所を訪れることを計画していた。
そこは昔、家族3人で見に来たことがあった。その日もちょうど今と同じくらいの時期で。
九華は母と姉と出かけることがまず嬉しくて、電車でもバスでも大きな声を出して騒いでは母に咎められた。
聞き分けのいい姉は静かに窓の外を見ていた。

ああ、そうだ、空は青かった。
夏の焦げる匂いがしたから、確か麦わら帽子を被っていた。
普段は男の子のような格好の多い六華が、その日は白いワンピースを着ていた。

長い坂道で、くたくたになったのを覚えている。
でも、それが全て吹き飛んでしまうほどに美しかったのだ。幼心に感動していた。

一面の黄色。
太陽に向かって力強く伸びをする地上の光。

『わぁ…』

思わず声が漏れた。


九華は坂を上る。
その先にはヒマワリの花畑があるはずだから。

でも、変だ。
長い坂道だったけど、こんなにも長くはなかった。
上っても上っても、歩いても歩いても、頂上が見えない。

「お姉ちゃんがいないから?」

だからあの時のワクワクした楽しさはなく、長く感じるの?


長い長い坂道。
終わりが見えた。
一面の黄色。
ヒマワリ畑。

ただ、それだけ。

頑張って歩いてきたのに感動はちっとも湧かない。
すぐに背を向けた。
もと来た道を引き返す。


太陽が照りつける。
ジリジリ、ジリジリ。

「暑い…」

下を向いた。自分の履いているスニーカーが見える。

思ってしまった。気づいてしまった。
ああ、なんてこと。真夏の太陽はこんなにも煩わしくて不愉快なんだ。


「ねえ、お姉ちゃん。暑いね。それもこれも全部太陽のせいなんだよ。ねえ、お姉ちゃん」


あなたにとってわたしはそんなそんざいなのでしょう?


 

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