「ちょ、待っ…はあああ???は?え?マ、マジで?ホンマにやるんかいな!?」
今年に入ってこれ以上慌てふためいたことがあっただろうかというほど取り乱す大吾。
しかし、確かにりいこは大吾の手首を引っ張って歩いているし、その足が寝室に向かっていることも確かなのだ。
内心、(この流れでえええええ!!!???)と泣きたい気分である。
果たしてこのまま初体験を迎えてしまうのだろうか。普通はもっとムードやシチュエーションを気にするものではないのだろうか。
というかそもそもこれが本当に初体験なのだろうか。その前にヤったとか…
(いや、それはないわ。ないない。あったら覚えてるって)
「なあ、鈴原ってこれが初めて?」
「初めてだよ!やるよ!」
(あ、なるほどね。やる気満々なんですね。それは痛いほど伝わったわ…)
いっそ女子のようにムードがどうこうと気にしている自分が女々しく思えてきて、大吾はとうとう腹を括ることに決めた。
これから事に及ぼうというのに「腹を括る」時点で、もはやそこに正常な思考回路は残されていなかったのかもしれない。
「えっと…まずは…」
りいこは大吾の手首を掴んだまま、うーんと首をひねった。
少女漫画で見たシーンを思い出しながら、漫画の登場人物と同じように大吾をベッドに押し倒す。
「ちょっ、鈴原…ほ、ほんきなん?」
「本気だよ?」
ただし、その漫画の登場人物たちとはちょうど男女が真逆なのだが。
りいこは大吾の上に馬乗りになるとシャツに手をかけた。
大吾の上半身が露わになる。次にズボンのチャックにりいこの指が触れ…その辺りで、大吾が身をよじらせた。
「なに?大ちゃん?」
「あ、あのさ…この状況はちょ、ちょっと…」
彼女に馬乗りにされ服を脱がされている状況は男としてどうなんだ?と伝えたかったのだが、どうやら鈍い恋人には高度な解釈を要してしまったらしい。
結果、解釈を誤るりいこ。
「…あ、そっか。不公平だよね、わたしも脱がなきゃいけないよね…!」
「あ、いや、違っ…!!」
という大吾の声は届くことなくむなしく空振るのだった。
りいこは自分の着ているブラウスのボタンを一つまた一つと外していく。
シャツの隙間から色白の肌と薄桃色のブラジャーが見えて、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
(やばい…これ以上は理性保てる自信ないわ…)
大吾は自制する意味でキッと眉間に皺を寄せると、りいこの肩を掴んで強い口調で言い聞かせた。
「いいか、鈴原が本気だって言うんなら、もうどうなっても知らんからな。」
「……へ?」
りいこがポカンと首を傾げている間に、大吾はベッドから立ち上がるとパチンと照明の電気を消した。
「ここからは俺のターンや」