この空が涙をこらえている子供だとしたら、
私はその子にこう言うだろう。
「泣けばいいのに」
橋の欄干。見下ろすと川が流れている。
それなりの深さがあると聞いた。流れは速いから、溺れたらそれで終わり。
苦しんで、もがいて、苦しんで苦しんで苦しんで、光も見えず苦しみしか感じられず、死ぬ。
欄干に手を置いた。
ぐっと腕に力を込めた。
体を前に乗り出した。
空が近くなる。
不思議だ。世界が広くなった気がする。
「なにやってんの?」
背後の声に振り返る。
こっち見てる。
そうか、私に、声かけたのか。
男が立っていた。
学ラン、制服…どこかの高校生、か。
少し気になった。
(この人は私がなにをしていると思ったんだろう)
(自殺しようとしているんだと思った?)
(だとしたら「死んだらそれで終わりだ」と引き留めるのか)
(その目はなんと言っている?)
男の目をじっと見る。じっと見る。
瞳孔が広がる?
ああ、分からない。
人の心はちっとも理解できない。
「…」
欄干から体を離す。
男から視線を伏せて、歩き出した。
「なんだよ、無視か?」
ああ嫌だ嫌だ。自分の言いたいことさえ引っ込めるほど弱くなったのか。
人と接することすらわずらわしいと思える。
このまま歩くのをやめなければ、今話しかけられたことも、話しかけたことも、お互い忘れてゼロになる。
ならば、どうして立ち止まる必要があるだろう。
私は歩いていて、
そうしたら突然、
後頭部に、鞄が飛んできた。
衝撃にかっとなって体を翻した。
その時頭にあったのはただ単純な怒り。
今まで頭の中ぐるぐるしていたものが吹っ飛んで、
私は
「ふざけんな」
と、一言純粋な怒りをぶつけた。
「なんだよ、ちゃんとした人間じゃねーか」
反論ではなく、しかしだからといって私の抗議を無視したわけでもない。
ただ、その男の言葉が理解できなかった。
(こいつは、何を言っているのか)
訳が分からない。
いくら顔を凝視したって無駄だ。
わからない。
でも、なぜかふとどうしてもこの男に聞きたいと思った。
それは疑問符をつけることもできない。質問と区分けすることもできない。
でも、返事が欲しい、とそう思えてならないもの。
それは喉をついて声になった。
「子供が、泣き出しそうなの」
男は難しそうに私の目を見る。
そこに、答えなんて書いてやしないのに。
なのに男は理解したとばかりに頷いて、言ってのける。
「そんなの、そばまで寄って、頭撫でてやって、『泣いたらブサイクになんぞー』って、泣きやますんだよ」
空を仰ぐ。
ああ、どんよりと重い、今にも泣き出しそうな顔だ。
「そっち」
男が橋の向こう側を指さす。
雲の切れ間、わずかに、晴れのきざしが見えた。
+++++
睦木のこのときの状況心境について書こうと思ったけど、それは学生板の方でします…。
時期は2年生の終わり。このあとちょくちょく偶然会ったりすればよい。
フラグ立てるのが好きだけどいかんせん空回りした気がしてならない^q^
岩睦いいよ、岩睦^///^