「リベラ!」
本日何度目かのニセジュホさんの召喚。
「申し訳ないです、吉宗さんばかりに力を使わせてしまって」
「いいんだって。俺まだ全然元気だし。それにほら、プリエさんは偵察してくれてるじゃん」
「吉宗さん…ありがとうございます。無理なさらないでくださいね?」
「りょーかい!(`▽´ゞ」
僕の能力は絵に描いたものを具現化させること。
この能力を応用すれば、他人の技もパクr…お借りすることができる。
現在は寒さ対策と照明のために、同じ学園の知り合い、ジュホさんを具現化中だ。
この人本人はうるさいし面倒だけど、こっちは喋らないからその点便利だな~。
一方その頃、
「ぶえっくしょん!!!」
「鷲火ちゃんもくしゃみするのね。寒いの?」
「この炎を見てそんな戯言を申すか!小娘が!!」
「ふふ、ならどこかで誰かが噂してるのかしら?」
「噂……?それとくしゃみと何の関係がある?貴様は黙って私に続け!」
「…………それで迷子になってるんじゃない……」
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも」
ジュホさんに氷の壁を溶かしてもらっている最中だった。
「吉宗さん、あれ……」
そう言ってプリエさんが指差した先には、今までと様相の違う通路。
地下の最下層にホールがあると言っていた。おそらくあの先が会場だろう。
「いよいよだ。」
「そうですね。」
舞踏会の会場であり……そしておそらく、二回戦が行われる場所。
「気を引き締めて行こう。」
「吉宗さん、それも大切ですが……」
「うん、分かってる。ダンスパーティー、楽しもう!」
「ええ!」
そう、見方によれば今立っているこの場所だってとても綺麗なんだ。
四世界のうちの一つ、魔界ビヒヨラを再現していると聞いた。
まるでお伽噺の世界。氷の柱が宝石のように色とりどりに光を反射する。
皮肉なくらい、舞踏会がお似合いだ。
「うわぁ」
目眩がしそうだ。
会場の中は暖房が効いているのか、外とは比べものにならないほど暖かい。
極寒からオアシス、そんな感覚である。
そして飛び込んでくるシャンデリアの眩しい光。
これに関しては外と大差ないのかもしれないが、明暗の差に圧倒されるというか……。
闇魔法フィールドから光魔法空間に飛ばされました的な……自分でも何を言いたいのか分からなくなってきた。
とにもかくにも、凄いの一言。
「うわぁ」
さっきからバカみたいにこれを連呼している。
「あ!ヨシくーん!ラプリエさーん!」
声がした方を振り向くと、そこにはアイちゃんの姿。
「こんばんは!」
「こんばんは。」
「ドレスだ!」
「えへへ、どうかな?」
アイちゃんはスカートを翻してクルッと一回転。
「うん可愛い!似合う!アイちゃんは白とピンクが似合うよね~」
胸に大きなリボンをあしらった真っ白なドレス。肩にはケープ。
全体的に“可愛い”雰囲気なのが、やや童顔のアイちゃんには本当によく似合っている。
「ヨシくんは?」
「あ、もちろん俺も持って来てる。」
「あー、やっぱりそうかー。私もこっちで着替えれば良かったかな」
「着て来たの?」
「うん。」
「アイちゃん勇者じゃん。」
「そんなこと褒められても嬉しくない^^」
アイちゃん主従との再会できたことで、足取り軽くラプリエさんと更衣室に向かった。(もちろん別々だけど!)
アイちゃんの話じゃクラレンスさんとここまで来たらしい。
ホールで他にも何人かと会ったって言ってた。
良かった。みんな無事に辿り着いたんだ。良かった。
ホールに降り立って泣きそうになったのは自分だけじゃないと思う。
あの人も、この人も、いる。知っている顔を一人ずつ確認するたびに、目頭が熱くなった。
ドレスコードが新鮮とか、そういうの全部後回しになる。
「カジロせんぱああああああい」
「ノラさああああああん」
「さっつんうわああああああ」
顔を合わせるたびに全力でハグした人が上記で収まらないだなんて……嘘みたいだが本当の話だ。
「良かったですね。」
そんな僕を見て、プリエさんはクスクス笑う。
「感情が高ぶってつい……」
恥ずかしくて目を逸らしたまま答える。
「……」
「どうしました?」
「あ!いや……うん、」
僕の視線に気づいて、プリエさんは不思議そうにこちらを見た。
今のプリエさんは青色のドレスを着ている。いつもより優雅な感じ。
同じ人なんだけど、なんか変な感じだ。
「ドレスの感想言えてなかったなって。うん……えっとその、きれい、です」
っていうのは自分のセリフなんだけど……
うわああああなんだこの感じ。すごくかゆい!!恥ずい!!顔から火が出そう!!
「……あ。まさか、そんなお言葉をいただけるなんて……。
ふふ、すごくうれしい……ありがとうございます。」
プリエさんは口元を手で覆って、泣き笑いのような顔をした。
僕はその顔もまともに見られなくて、ついにはしゃがみ込んで頭を抱えた。穴があったら入りたい。
でも、反面どこか心地よさを感じていた。
ときどき思う。僕に母親がいたらって。
だから他の人と違って、着飾った姿の感想を言うにも無性に恥ずかしくてたまらないんだ。
今のこのプリエさんは今日しか見られないんだろうな。
あの時は適当に踊ったけど、今度はちゃんとエスコートしたい。
だから、ホールで踊る人たちをじっと見つめた。
思ったとおり、いくつか決まったステップがあって、それを繰り返しているようだ。
「何を見ているんですか?」
「うん、ステップ、覚えようと思って」
「そんなこと出来るんですか?」
「たぶん。覚えた、と思う。ね、プリエさん!」
そう言って膝を折って、左手を差し出す。
「シャルウィーダンス?」
わざとらしくかしこまってみせると、プリエさんはにっこり微笑んで右手を出した。
「喜んで」
この身長差だと周りで踊っている人たちのようにはいかないかもしれないけど、
リードすることならできるよね?
結果はというと、進歩したような気もするし、むしろ意識し過ぎて逆に退化したような気がしないでもない。
何度か足を踏んじゃったし、プリエさんからのそれはなんとか回避し続けたけど、結局踏まれて強制終了。
謝ってくれたものの、それよりもおかしくて仕方ないといった様子で。
眉はハの字でも口元は笑っていた。まあ、僕としては気に病まれるより全然いいんだけどさ。