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それなりに長さのある文章置場兼描いたもの置き場。 よそ様のお子さんをお借りすることもあります。その時は親御さんの名前を明記いたします。
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ロバートさん(@提督さん)の始祖化のお話のベゼサイド、を勝手に書きました!
お名前は出てきませんがすごくお借りしてます。
すみません!ありがとうございます!











吸血鬼:血液を啜り、それを糧とする魔物。



「疑ってなどいないとも。私はお前の能力を買っている。
そうだな、あれは確かに“人間”のようだ」


屋敷に戻る道すがら、ふと目に入った光景。男が女の血を啜っている。
それ自体は特段珍しいものではなかった。
ここは魔都だ。月の恩恵を潤沢に受ける。ゆえに吸血種も相当数存在する。
これもまたよくある光景の一つであるはずだった。

コツリ。
ベゼは屋根の上に降り立ち、陰になる場所にすっと身を潜めてその様子を窺った。
そして一匹の使い魔に指示を出す。偵察の後あの男の種族を報告せよ、と。

事の成り行きをひとしきり観察し、ベゼはひとつ頷いた。

「なるほど、どうかしている」


++++++++++++++++++++++++


使用人であるイザベルは自らの主人に差し出すはずのティーカップを、テーブルにつく直前に一度盆に戻した。柳眉の間に深い深い縦皺を刻みながら。

「今、なんと?」
「だから、経血を啜る男をどう思うか?と聞いている」

どうやら聞き間違いではなかったらしい。

「質問の意図が読めません。まさか、そんな趣味に目覚めたのですか……?」

胡乱な視線を隠しもせずに主人をまじまじと見つめる。

イザベルは思い起こしていた。この主人の抱える厄介な体質を。
特定の血液以外は拒絶反応を示す。それは事実だ。だが、それは本人の望まぬところのはずで、そこに愉悦や興奮、ましてや特殊な嗜好など伴わなかったと記憶する。

それが、どうして。

高潔な主が、突然ド変態に堕ち果てたかのような衝撃に襲われる。

「お前は時に残酷なまでに分かりやすいな。その表情が言葉よりも雄弁だ」

「いえ、一人で勝手に納得しないで下さいまし。事によっては自分の主人を軽蔑対象と捉えて仕えなくてはならなくなります。即時簡潔に説明を」

困ったように苦笑しながらも口元をほころばせる主に対し、使用人は少しも心穏やかになれずこめかみにわずかな怒りの色を乗せる。

「ああ、いや悪い。お前を失望させはしないとも。そう恐い顔をしてくれるな」


イザベルは主人の紡ぐ言葉にじっと耳を傾けた。
つい先日見かけた、よくあるようで実に希有な光景。そこに居た男のとある行動。
そこまで聞いて、そういう事かと膝を打った。

「吸血鬼にも色々あるように、人間にも特異な者はいる、ということでしょう」
「そう言ってくれるがな、……まあ、なんと言うか……」

イザベルから淡泊過ぎる意見しか出なかったことは、男であるベゼにもそれなりに理解できた。
潔癖のきらいがある女だ。デリケートな部分に他人が触れると想像しただけで身の毛もよだつのだろう。
それは分かるが、ベゼは件の男に対してまた別の感情も抱いていた。

「人間であることで生き辛さはあろうな」

吸血種が血を吸うことでさえ、人間から見れば怖ろしく嫌悪すべき行為だ。だがそれはただの食事に過ぎないし、人間たちもまたそれを理解できるはず。たとえ受け入れがたくとも。
ではこの唾棄すべき行為を同じ人間がやったとすればどうなる?それは食事か?いや違う。では何だ?
大多数が共感できなければそれはきっと、“異常”だ。

「吸血鬼だとしてもどうかしてますよ」

心底穢らわしいとでもいうように吐き捨てられる。
どうやらこの女に憐憫の情は皆無らしい。
その一貫した姿勢にある意味で感服しつつ、ベゼはつい笑い声が漏れてしまった。

「はぁ……ご主人様、まさか仲間に引き入れようなどととち狂った事を考えておられないでしょうね?」

イザベルは眉をつり上げながらムスリと顔を近づける。

「まさか」

興味が湧かなかったと言えば嘘になるが、仲間になどとは露ほども思い浮かばなかった考えだ。
そもそも自分とて身内可愛さのほうが有り余る。すでに部下からこれだけ反感を買っているのに、押し切ってまで我を通す気は毛頭ない。

「友人にするにしても難ありだろう」
「ええ、全くもって」


++++++++++++++++++++++++


不便なものだな、と独りごちながらフードの裾を引き下げた。
今は魔道具の力を借りてヒトの形を取っているものの、外敵である人間たちに顔の印象が残るのは避けたい。
羽があれば数秒でこと足りる距離を、わざわざ足を使って移動することの馬鹿らしさと言ったら。
口からこぼれそうになる何度目かのため息を噛み殺していると、ふと何人かの話し声が聞こえた。

この辺りはさほど人通りは多くない。それもそのはずで、周辺には店もなければ住宅もないのだ。あるものといえば、処刑場程度。

「ああ、ついにあの悪魔が殺されるんだ」
「言葉にするのもおぞましい……人間のくせに血を……よりによってあんな血を……」
「何の罪もない親子よ。幸せの絶頂だったでしょうに、なんて惨いの……」
「あんな男、処刑されて当然だ」

ざわざわと交わされる声のいくつかを掻い摘まむ。
ベゼはその中のワードをピースとして、カチリととある人物の像を導き出した。
そして直後、一段と大きくなったざわめきの向こうを認めて、確信した。

棒立ちで、こちらを、群集を見つめる男。
ベゼはその顔に見覚えがあった。たとえ夜中であったとしても、その日もまた月が明るく照らす夜だった。見間違いようがない。

その男は罪を犯した。
社会に拒絶されるほどの罪を。他者にその命の決定権を奪われるほどの罪を。
乾いた地面。銃を構える兵士たち。殺せと騒ぎ立てる群集。処刑場。
きっとここが必然の末路だ。

ベゼはそっと目を伏せた。
人間とはかくも儚く散るものだ。

何度かの銃声。飛び散る血飛沫。
男はそこに立っていた。
何度かの銃声。飛び散る血飛沫。
まだ、立っている。

ああ、なるほど。
「楽に死なせてやるものか」
腕や脇腹などあえて急所を外すのはそれ故の行動だろう。
同じ人間にこのような仕打ちができるのか。いや、同じ人間だからこそ、だろうか。
執行人である兵士たちにしろ、見物する群衆にしろ、自分たちはお前とは違うのだ、と明確に線引きせんとする圧のようなものを感じる。
まるで、別の生き物、たとえば“バケモノ”を前にしているかのような。

まさにそうだったのかもしれない。
奇妙な光景であった。
通常であれば主導権は執行する側にあるはず。
それがどうした。
殺されゆく男に踊らされるようにして、悲鳴の如く撃鉄が鳴り、鉛の雨が降らされた。
過剰に凄惨な死体といい、直後湧き上がる歓声といい、これでは一種のショーではないか。
自分もブラボーと拍手のひとつでも贈ってやるべきかと思案したが、それはそれで何か釈然としない。
観客の一人としてここまでの成り行きを見届けてしまった時点ですでに手遅れなのだが、それでもあの男に魅せられた事実を認めたくはなかったのだ。

ベゼはハッと我に返り、懐中時計で時刻を確認した。
まずい。そのまずさは額からつーっと冷や汗を滴らせる程度にはのっぴきならない。
慌てて身を翻しかけたところで、処刑場の方から叫び声が聞こえた。続けざまに嫌だ悪魔だ逃げろと混乱にまみれた声がどっと打ち寄せる。安全な場所を求めて人々は蜘蛛の子を散らすようにその場を駆けていった。

あれだけ騒がしかったのが嘘のようだ。
自分一人がポツンと残されたその空間で、ベゼはなんとも言えない居心地の悪さに苛まれた。この姿で変に目立つのは困る。

しかし、それは無用な心配であった。なぜなら、“それどころ”ではなかったのだから。


目の前に広がる光景。
それはベゼにも見覚えがあった。いや、厳密には身に覚えがあった。

有り得ないほどひしゃげ、吹っ飛び、グチャグチャになったはずの死体が“復活”する様を、ベゼは黙って見つめていた。
ゾンビという形で死体が動き出す現象も、どこぞの書物で読んだことはある。だがこれは違うとすぐに分かった。

始祖化。

ごく稀に何らかの原因で魔物や人間が吸血鬼に成り変わるのだ。
悪魔や邪神に力を授けられるだとか、何らかの魔法の影響を受けてだとか、その成り立ちは様々だと聞く。

いっそ小気味よいほどに次々と無惨に殺戮されていく兵士たちを眺めながら、ベゼはこみ上げる笑いを堪えきれず喉奥を小さく震わした。

ふむ。悪魔か邪神に目をつけられた辺りが有力か。
始祖化した影響で凶暴になる、とは聞いた事がない。これが前例のない事態ならば話は別だが、おそらく今繰り広げられているこれは男の本来の姿だ。
なんともグロテスクなショーを見せられているものだ。

バケモノ扱いされた人間を、本物のバケモノにしてしまうとは。

「こちら側へようこそ」と手を叩きながら歩み寄って握手を求めるのも一興だが、まあ、賢くはないな。
アレはどう見ても、“吸血鬼としてもどうかしている”。


ベゼは身を翻し、何気なく時計に目を落としたところで、固まった。

「まずい……」

切実に時計の針をぐるぐると巻き戻したかったものの、生憎と始祖であるベゼにも時間を遡る能力は持ち合わせていなかった。


++++++++++++++++++++++++


「ご主人様!!!ベゼッセンハイト様!!!!!
これはッ!!一体ッ!!どういうことなのですッ!!!!!」

フラフラの足取りでなんとか屋敷に帰還したベゼは、金切り声の使用人からそれはそれは熱い歓迎を受けた。これは脳味噌に響く。
労ってほしい気持ちが本音だが、己が責められるに足る所業をしでかしたのも事実で。

「愚かですなぁ。本日は五日ぶりの狩りであったでしょうに。一切合切なーんの収穫もなくのこのことお戻りになるとは。旦那様ともあろうお方が一体どこで道草を食っていたのやら」

のほほんと髭をいじりながら登場したこの男は、ベゼとはとりわけ長く付き合いを共にしてきた使用人の一人である。
指揮棒を懐から取り出すと、ふわりと弧を描いた。すると、これまで室内に穏やかに流れていた音楽が一変。ジャジャジャジャーンとピアノが乱暴に空気を割り裂き、だんだんと荒波のように激しさを増していった。
やめてくれ。頭痛に障る。ついでにイザベルのボルテージも上がるだろう!
ベゼは現行犯の音楽家を睨んだが、どこ吹く風でにっこりと微笑まれるのみだ。

「ご主人様!!ご主人様!!!ご主人様!!!!
貴方というお方はどうしてッ!!だからおやめになった方がいいと申し上げたのです!魔道具を使って正面突破など!もしもの場合に力が使えないのですよ!」
「それは、時間通りに行動すれば問題は」
「それが出来なかったからこうなっているのでしょう!!!!」

確かこの女は自分の母親ではなく部下であったはず。
ささやかな抵抗を試みたところであえなく一蹴され、仁王立ちのメイドにただただ糾弾されるばかりであった。

反論できないのはこの女の言が全て正しいからだ。
この日は五日ぶりの狩りであった。ここのところ差し迫る業務に追われ、自分の食事は後回しにしていた。いい加減何か腹に入れてこい、と遠回しにたしなめられ、ついには筆も取り上げられた。

だが弱ったことに、仕事優先で情報収集班を稼働していたため、自分の食糧となる獲物のあてがない。
しばらく記憶の糸をたぐり寄せ、行き着いたのがとある孤児院であった。
孤児院ならば高確率で食糧となる女児がいる。しかし問題なのは、その孤児院には魔物を感知するまじないが施されていた。すりぬけで突破することはできない。
そこで、侵入するまではヒトの振りをし、中に入ってから元の姿に戻って襲おうと考えた。
急ごしらえであったため色々とずさんであったことは認めよう。自分の食事のことだからと適当になったのも認めよう。

結果、孤児院にたどり着く前に魔道具の効果が切れ、門前払いされたとここに白状しようではないか。

「ふふふ、ベゼッセンハイト様は本当に愚か。優秀な部下を持って幸せですね?」

「メイド長!!」

振り向くと、そこには女を横抱きにした女の姿があった。
ベゼの部下であり眷属であり、イザベルの上司である女だ。
横抱きにされ、気絶している女もまた、どこかで見た覚えのある顔だ。

「それは……?」
「果物屋の娘です。利発で明朗な娘ですから親しくしておりました。ベゼッセンハイト様もお会いしたことがあるでしょう?この娘と共に仕事ができたら、なんて戯れも願い出ましたっけ」

そうクスクスと笑いながら、眠る女の首筋をベゼの口元に差し出す。

「正真正銘、純潔の乙女ですわ。安心してお飲みなさいませ」


食事を摂らせた後、半ば強引にベッド代りである棺桶に押し込んでから、使用人たちは誰からともなく疑問を口にした。

「たとえご自身のことであったとしても、生真面目なお方。一度立てた計画をこうも易々と放り出すとは」
「気になるのは道草の理由ですね。何があったのでしょうか?」
「ベゼッセンハイト様の興味を惹くだけの、何か。…………ふふっ」
「メイド長……?」
「ふふふ。いいえ、何でもないわ。ただ、そうね、嫌な予感がして。それがつい、面白くって」
「そんなッ!やめて下さいまし!メイド長の勘はよく当たるんですから!」
「おお、それはそれは。わたくしとしましてもワクワクしますなぁ」

まるで嵐の訪れを楽しむかのように、厭うかのように、使用人達は大きく丸い月を見上げた。




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